RENESAS EDGE TAKUMI - The Professional


株式会社 北嶋絞製作所
専務取締役 北嶋貴弘氏
職人技による「モノづくり」の現場が見たいと思い、「へら絞り」と呼ばれる手作業による金属加工を専門に行っている北嶋絞製作所を訪ねた。
「へら」と呼ばれる棒を巧みに操り、高速で回転する金属板を金型に押し当てることで、さまざまな形をした筒状の製品を作り上げるのが「へら絞り」加工だ。0.1mm単位の加工精度で、金属板を人の手によって、製品形状に創製していく技術はまさに職人技と呼ぶに相応しい。
自らが職人である、同社専務取締役の北嶋貴弘氏に話しをうかがった。
へら絞りを始める前に、材料となる金属板を
サークルシャーと呼ばれる機械で円形に切り出す
—「へら絞り」という金属加工法が、職人の手作業に頼るものだと聞いて興味を持ちました。まず、「へら絞り」について教えてください。
「へら絞り」は、材料の金属板を円形に切り出すことから始まります。次に、その金属板を金型とともに絞旋盤と呼ばれる機械にセットして回転させ、潤滑剤を塗布しながら、金属板を「へら」で押し当てて金型に密着するよう形作ります。
金型どおりにぴったりと金属板が成形されているかは、金属板を叩いたときの音や「へら」から伝わってくる感覚などで確かめます。いっきに力を加えようとしてもうまくいかないため、足の先から手の先まで全身の神経を研ぎ澄まし、体重を移動させながら「へら」の力が均等に金属板に加わるように絞っていく(加工する)必要があります。

全身の神経を研ぎ澄まして、体重を移動させながら
へらの力が均等に金属板に加わるように絞っていく
—「へら絞り」は昔からある技術なのですか。
「ヘラ絞り」の発祥は、中世のヨーロッパだと言われています。いつ日本に伝わったかも定かではないようですが、昔からある技術です。
終戦後まもなく、私の祖父にあたる創業者が金属加工の技術を学び、「へら絞り」を始めるようになったのが弊社の始まりです。当時は、主にヤカンや鍋といった生活用品を作っていたそうです。良質の金属を入手するのが困難な時代であり、がれきの中から不発弾を見つけてきて、「へら絞り」加工の材料にしたこともあったそうです。
—「へら絞り」で加工される製品にはどういったものがあるのでしょうか。
材料から説明しましょう。主に鉄やアルミニウム、ステンレス、銅、真鍮を扱っています。ときには金や銀、プラチナといった貴金属を材料にすることもあります。また、最近では、レアメタルと呼ばれているモリブデンやタングステン、タンタル、チタンといった硬度が高い金属の加工依頼も増えてきました。
飲料缶の試作品をはじめ、人工衛星機器や航空機、半導体製造装置の部品、巨大なパラボラアンテナにいたるまで、大小さまざまな部品の加工を手がけています。

左から1枚目=ときおり潤滑剤のワックスを塗り、へらで一瞬のうちに金属板をへらで成形していく
2枚目=タンタルの金属板をへら絞りによってるつぼに成形している様子
—「へら絞り」ではほとんど全ての工程を手作業で行われているようですが、プレス機による加工と比べると何が違いますか。
金属には弾性があり、変形しても元に戻ろうとする力が働きます。そのため、金型に合わせて材料を形作ろうとしても、弾性による形状変化でわずかな狂いが生じます。「へら絞り」は均一に力を加えて徐々に形をつくっていくのに対して、プレス機による加工では局所的に力がかかるためにその傾向が強くなります。そのため、高い精度を求める加工には「へら絞り」が不可欠です。
また、加工に必要な金型の数が異なります。プレス機による加工では、対となった金型の間に材料を挟んで加工するため、金型は常に二つ必要です。一方、「へら絞り」は片側金型だけを必要とするので、金型に関わるコストが抑えられます。試作品などの少量生産において、「へら絞り」による加工が多い理由です。
一方で、生産性という面ではプレス機による加工が有利です。弊社でも、それほど加工の精度が求められない大量生産品であれば、自動絞り機やプレス機を併用することもあります。
—「ヘラ絞り」技術の難しいところは。
極端に薄い材料(0.1mm程度)の場合は、「ヘら」を少し押し当てただけで意図している箇所とは違うところまで変形してしまうため、極めて慎重に作業する必要があります。逆に、材料によって異なりますが、厚さが5mmを超えるような金属板も労力を必要とします。硬くて厚い金属板を加工しようと無理に「へら」で力を加えても、「へら」を支えるボタン(てこの支点)が破損したり、「ヘら」の先端が力に耐え切れずに壊れてしまったりすることがあります。
また、「へら絞り」は均一に力を加えながら金属板を伸ばしていく加工法のため、奥行きが長くて大きい形ものを「へら」だけで形作るには相当な技術が必要になります。
感覚的な技術が求められるため、製品の仕上がりにも個性が出ます。どんなに熟練した職人でも体調が悪いときは、製品の出来にも影響します。
てこの支点になるボタンの位置を変えながら
へらで慎重に作業を進める
製作所にはこのような巨大な金型も、奥には木製の型も見える
完成品の中では大型のパラボラアンテナ
—「へら絞り」による金属加工を行っている工場は数多くあるようですが、その中で御社が有名になった理由はなんでしょう。
特別にすごいことをやっているという意識はありません。ただ、他社ができないこと、他社がやりたがらないような仕事に対して、弊社では率先してチャレンジしてきました。
そして、一度受けた仕事であれば、どんなに困難が伴うものであっても必ずやり遂げます。納期を例にするなら、作業受注時に想定していた段取り通りに工程が進まない際も、弊社では決して納期を伸ばすことなく厳守します。
新規の取引先に見積もりを出すと、その金額の高さに驚かれることもあります。しかし、我々はそれだけの価値のあるものを提供しているという自信があります。 実際、価格の安い他社に加工を発注したものの、出来上がってきた製品の出来が悪かったため、再び弊社に依頼してきたお客さんもいました。
また、材料がレアメタルの場合は、加工が困難な上に、材料費も高額になります。作業に失敗したときのリスクを考えると受けづらい仕事ですが、弊社では経験を積むために積極的に受けています。
弊社には営業担当者はいません。それは、良い製品をつくれば、製品そのものが営業をしてくれると考えているからです。
—「モノづくり」の世界では後継者不足を嘆く声をよく聞きますが。
先日、弊社一番のベテラン職人が定年退職しました。しかし、その技術は20代、30代、40代の幅広い世代の職人に受け継がれています。世代交代はうまくいっていると思います。
弊社の「へら絞り」の作業に、マニュアルなどは一切ありません。多くのことは感覚的なことで、言葉で説明できるものではないからです。新人は先輩とともに作業をしながら、多くのことを経験から学びます。一人前になるには、最低でも10年ほどはかかります。加工する金属の種類や形状によって力の入れ方も異なってくるため、数多くの現場を経験して技術をコツコツと身に付けていくしかありません。
—仕事をする、やりがいを感じるときは。
「ヘラ絞り」は、依頼された製品の形状をどうやってつくり上げるかを考えるところからはじまります。金型をつくり、使用するヘラも自分たちでつくります。これまで誰もやったことがないようなもの、「へら絞り」では加工することが不可能に思えるようなものに挑戦することは楽しみでもあります。
以前、先が細くなる飲料缶の成形を依頼されたことがありました。「へら絞り」で形作ることは可能だったのですが、型の先が小径になっているため、成形後に金属板を金型から外すことができなくなる問題に直面しました。試行錯誤の末、成形後に分解して取り外せるように、前もって型を断片化しておき、成形の際にはそれをつなぎ合わせて使用することで解決しました。
「へら絞り」の技術だけにとどまらず、製品をつくるためのアプローチの手法を考えたり、使用する道具に改良を加えたり、「モノづくり」の過程そのものを楽しむことを常に心がけています。
取材後記
取材にうかがうと、大小さまざまな金属加工が行われていた。中でも、硬度の高いチタンをガスバーナーの炎でなめしながら成形していく様子は、あたかも飴細工でも加工しているかのような手さばきで、瞬時に形作っていくそのワザはまさに職人技と思わせた。
現在、後継者不足や技術の継承などに問題を抱えている町工場が多いと聞く。同社を訪れて驚いたのは、若い世代が本当にいきいきと働いていることだ。遠方から、自ら足を運び見学に来て、その後入社を希望する若者もいるそうだ。「モノづくり」は「ヒトづくり」でもあるのか。
株式会社北嶋絞製作所
| 設立: | 昭和22年11月1日 |
| 本社・工場: | 〒143-0003 東京都大田区京浜島2-3-10 TEL: 03-3790-2300(代表) FAX: 03-3790-3044 |
| 事業内容: | 各種金属板塑性加工全般ヘラ絞り・プレス絞り・特殊形状絞り これ等に付属する加工並に板金加工一式 |
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