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力率改善に加えて、電流波形の歪みが課題
「PFC(Power Factor Correction)」とは「力率改善回路」とも呼ばれ、パワーエレクトロニクス向けの機能モジュールを構成する重要な回路である。PFCは「スイッチング電源」と呼ばれる、交流電力を直流電力に変換するシステムでは必須の技術だ。
スイッチング電源の入力部を単純に説明すると、全波整流回路(ダイオード・ブリッジ)と呼ばれる交流波形を直流波形に変換する前半部分と、平滑回路と呼ばれる直流波形を平らな波形に変換する後半部分で構成される。平滑回路の主要な素子は大容量のコンデンサ(平滑コンデンサ)である。このような回路を「コンデンサインプット型整流/平滑回路」と呼ぶ。

図1:コンデンサインプット型整流/平滑回路
原理的には「コンデンサインプット型整流/平滑回路」だけで交流電力を直流電力に変換できるのだが、現実の回路はもっと複雑になる。「コンデンサインプット型整流/平滑回路」だけでは、交流電力の電流波形が大きく歪むためだ。
理想的な交流電力の出力波形は正弦波である。商用交流電源は50Hzあるいは60Hzで正弦波の電圧を出力する。そして50Hzあるいは60Hzで正弦波の電流を電圧と同じタイミング(位相)で出力するのが理想だが、現実にはそうならない。理想的な出力となるのは、負荷(商用交流電源の出力に接続される回路)が抵抗素子の場合に限られる。
負荷が抵抗のほかにコイルとコンデンサで構成される回路の場合は、電圧波形と電流波形のタイミング(位相)がずれてくる。位相のずれによって電力は有効電力と無効電力の二つの成分に分かれる。無効電力とは、位相のずれにより、商用交流電源が送出する電力(皮相電力)の中で負荷が使わない電力のことだ。
皮相電力の中で実際に使われる有効電力の割合を示したのが、PF(力率:Power Factor)である。かつては電流と電圧の位相のずれを少なくする、つまり、力率を改善することが電源の課題だった。最近では、負荷が「コンデンサインプット型整流/平滑回路」のようなダイオードとコンデンサを含む回路となったために、電流波形の歪みが問題になっている。
電流歪みの正体
電流波形の歪みを数学的に表現すると、元の周波数(50Hzあるいは60Hz)の奇数倍の電流波形が混ざっていると言える。例えば50Hzの商用交流電源では、3倍の150Hz、5倍の250Hz、7倍の350Hz、・・・といった周波数の電流波形が混じることで全体の電流波形が歪む。元の波形の倍数の信号を「高調波」と呼ぶ。このため、高調波電流によって電流波形が歪む問題を「高調波問題」と称することが多い。
そしてPFCはその名前の通り、かつては力率を改善するために組み込まれていたが、最近では「高調波問題」を解決するためにPFCを組み込むようになっている。
高調波問題の対策を含め、現実のスイッチング電源は「コンデンサインプット型整流/平滑回路」に比べるとはるかに複雑である。商用交流電力(AC85V~AC264V)を受け取る入力部にはノイズを取り除くためのフィルタ(ACラインフィルタ)が存在する。それから全波整流回路(ダイオード・ブリッジ)があり、その後ろにPFC回路がつながる。なお「コンデンサインプット型整流/平滑回路」の大容量コンデンサ(平滑コンデンサ)はPFC回路に含まれる。PFC回路の後ろには絶縁形DC-DCコンバータがつながる。

図2:スイッチング電源の回路構成
PFC回路の動作
PFC回路はインダクタ(昇圧コイル)、ダイオード、スイッチング素子(通常はMOSFET、IGBT)、平滑コンデンサなどで構成される。整流回路の出力電流はコイルを通じてダイオードあるいはMOSFETへと流れる。MOSFETがオフ状態のときには電流はダイオードを流れて平滑コンデンサを充電する。MOSFETがオン状態のときには電流はMOSFETを流れてダイオードは逆バイアスされる。
ここでダイオード電流をどのように制御するかの違いにより、PFCは二つの動作モードに分かれる。一つは「連続モード」で、ダイオード電流がゼロになる前にMOSFETをオンにする動作モードである。連続モードには昇圧コイルのピーク電流が小さいという特長があり、大容量の電源に適している。もう一つは「臨界モード」で、ダイオード電流がゼロになってからMOSFETをオンにする動作モードである。臨界モードには、ダイオードとMOSFETによる電力損失とノイズが小さいという特長があり、小容量の電源に適している。

図3:PFCの動作モード
また連続モードと臨界モードの両方とも、インダクタ(昇圧コイル)、ダイオード、MOSFETを二重化したインタリーブ方式が存在する。インタリーブ方式は電流の脈動(リップル)が減少する、効率が高まる、ノイズが低減されるといった優れた特長を有する。

図4:臨界モードでのインタリーブ動作(臨界インタリーブ動作)
まとめると、PFC回路には四つの動作モードがある。連続モードのシングルとインタリーブ、臨界モードのシングルとインタリーブである。ルネサスはそれぞれのモードに適した多彩なPFC ICを供給している。
| 電流モード | 連続モード | 臨界モード | ||
| IC例 | R2A20131 | R2A20114A | R2A20113A | R2A20112A |
| 昇圧回路 | シングル | インタリーブ | シングル | インタリーブ |
| 適用電力 | 250W~ | 1kW~ | ~250W | 250W~1.5kW |
| 入力電流リプル | 中 | 小 | 大 | 小 |
| PWM周波数 | 固定 | 固定 | 変動(自励発振) | 変動(自励発振) |
| スイッチングノイズ | 大 | 大 | 小 | 小 |
図5:PFCの動作モードとその特徴
PFC技術の課題と解決策
スイッチング電源を始めとするパワーエレクトロニクスでは不可欠とも言えるPFC技術だが、課題はまだ多い。効率向上(軽負荷時およびスタンバイ時)、力率向上(高調波規制対応)、セットコスト低減(外付け部品の取込み等)、全高調波歪み(THD)低減、ハイパワー化、後段DC-DCコンバータとの同期、小型化と軽量化、騒音の低減、高効率化、信頼性の向上、安定度の向上、高入力交流電圧の検出特性の向上、制御マイコンとのコラボレーションといった課題がある。
ルネサスはこれらの課題に適切に対応することで、優れたPFC ICを開発してきた。特に効率向上ではLTB(Load Tracing Boost)機能、臨界モード動作、フェーズドロップ技術に強く、またパワーデバイスについても、スーパージャンクションMOSFET技術、SiCショットキバリアダイオード技術を持つ。また薄型テレビ向け電源では、コイルの低騒音化(コイル鳴きの抑制)で豊富な実績を有する。
現在の注力分野は、薄型テレビとパソコン(PC)分野、インバータエアコンとIH調理器分野、LED照明(LED電球)分野である。これらの分野に向け、数多くのPFC IC製品を継続して開発、販売していく。
| 種類 | 電力帯/方式の特徴 | 用途 | PFC製品 | 関連製品 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 連続 (CCM ) | インタ リーブ | 大電力 (1kW~) リップル電流小 回路は複雑 | エアコン, IH | R2A20114A | IGBT、FRD |
| サーバ 基地局 | R2A20104 | R2A20124A、 高耐圧MOS、 FRD | |||
| シングル | 中電力(0.3 ~1kW) リップル電流大 回路は簡単 | デスクトップPC、 PDP TV, OA, | R2A20131 | 高耐圧MOS、 FRD | |
| 臨界 (CRM) | インタ リーブ | 中電力(0.2 ~1kW) リップル電流小 回路は複雑 | エアコン, PDP/LCD-TV, デスクトップPC, OA | R2A20132 R2A20112A | 高耐圧MOS、 FRD |
| シングル | 小電力(~300W) リップル電流大 回路は簡単 | LCD-TV, CCFL/LED照明 | R2A20113A R2A20133A/ R2A20133B R2A20133D | 高耐圧MOS、 FRD | |
図6:ルネサスのPFC IC製品ラインナップと応用分野
デジタルPFCが拓く新たな可能性
ルネサスの新たな取り組みにPFC制御回路のデジタル化がある。従来のアナログ制御回路ではコンデンサと抵抗の値を変更することで制御回路の特性を調整していた。これに対し、デジタル制御回路では係数(数値)を変更することで制御回路の特性を調整する。

図7:アナログ制御とデジタル制御
デジタル制御では係数(数値)によって制御回路の特性が決まる。アナログ制御ではコンデンサや抵抗などの部品特性のばらつきに起因した、制御回路の特性ばらつきが生じていた。デジタル制御ではこのような問題がなく、きわめて安定で性能の高いPFC制御回路を実現できる。パワーコンディショナや電気自動車などの複雑で安定な制御を要求する、大容量の電源に適した技術だといえる。
ルネサスでは32bit高性能マイコン「RX62T/G」を使用したPFC制御回路を試作しており、デジタル制御の優れた特性を確認済みである。今後の発展に期待したい。
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